2020年11月に公表しているOECDのデータによれば、日本の時間当たりの労働生産性は47.9ドルで加盟37ヵ国中21位に位置しています。また、同データによると労働者1人当たりの労働生産性 (就業1時間当たりの付加価値)は81,183ドル (約824万円)で、加盟37ヵ国中26位といずれも低い順位となっています。この順位は、シエスタで有名なスペインや残業時間が圧倒的に少ないドイツよりも低いことになります。勤務後の飲み会や申告されていない残業等をカウントすればさらに低い生産性となるでしょう。
また、アメリカKenexa High Performance Institute社の調査では、従業員エンゲイジメント (やる気/組織へのコミットメント・士気)の観点でも、調査国28ヵ国中ダントツの最下位であることがわかりました。世論調査を手掛けるアメリカ・ギャラップ社の調査でも、日本における熱意あふれる社員の割合はわずか6%にとどまり、調査国139ヵ国中132位という結果になりました。
つまり、日本の労働者はやる気も生産性も世界トップレベルで低いということになります。指揮・命令に口答えせず、朝から夜遅くまで勤勉に働く日本の労働者の生産性がなぜここまで低いかを考えることは、「働き方改革」を進めていく上で非常に重要です。物価や金利など企業サイドで制御不能な要因によって生産性が低く見積もられる傾向にあることは否めません。しかし、ドイツやフランスと比較して、労働時間が圧倒的に長い割に、付加価値が少ないというのもまた事実です。
アメリカを中心とした長年のHRの研究結果に基づくと、エンゲイジメントは生産性に強い影響を与えることがわかっています。やる気が高く、「会社に貢献したい」という意欲が強い従業員ほど高い付加価値をもたらすことは当たり前の話であります。しかし、エンゲイジメントが高ければ、長時間労働を厭わず、その結果アウトプットクオリティが高くなるという前提は大きな間違いであります。労働時間の冗長化は集中力の低下を招き、結果としてアウトプットのクオリティが下げるだけでなく、長期的に「バーンアウト」や「プレゼンティズム」など生産性を大きく下げる原因になります。そのため、エンゲイジメントの高い従業員が効率的に働いて初めて、生産性がアップするのです。
生産性を向上させるためには、「いかに働くか」ではなく「いかに楽をするか」という議論が重要になります。「楽をする」というのは怠惰になることではなく、不必要な工程を可能な限り排除し、本業の最適化をすることを意味します。また同時に、エンゲイジメントを向上させるために現状を振り返ることも重要です。やる気が低いのは経営・マネジメントの問題か、中間管理職の能力不足か、あるいは従業員個人のポテンシャルの問題なのか。精神論的な議論ではなく、科学的に組織の課題点や機能不全を見つけ出すことが非常に重要です。
(D.S)