Vol. 57では今までと質的に異なる「ジェネレーションギャップ」「今どきの若いモン問題」について言及しました。新世代 (Z世代) の職業倫理感や働き方を「単なるわがまま」と切り捨てていては採用難・退職率問題から永遠に開放されず、労働者の超高齢化が進行し、その結果として市場のニーズを上手く捉えられない鈍感組織になる危険性があります。この問題を防止するためには、新世代労働者に耳を傾け、人事制度のアップデートに踏み切る必要があります。
また同時に企業経営者は、「ジェネレーションギャップ」など質的な課題だけでなく、「少子高齢化・生産労働人口の減少」という日本全体が抱える量的な社会問題にも直面しています。
2008年時点での生産年齢人口は8,230万人 (出典: 総務省統計局)でしたが2018年には670万人減の約7,561万人 (出典: 総務省統計局)まで落ち込み、2028年には約7,014万人、2040年には6,000万人、2056年には5,000万人を下回り、2065年にはなんと約4529万人になると推計されています(出典:国立立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口 (平成29年推計)』。
10年で600万人の減少とは凄まじい数字であり、この数字が人員不足や採用難に直結しているのです。推計通り生産年齢(労働)人口が減少し続ければ、中小企業の人事課題はますます肥大化し続けることになります。優秀な人財の一部上場企業・大手企業への一極集中化は今後も変化しない、もしくは不景気に伴い更に加速する見通しが立っています。
「新型コロナウィルスの流行」、「コロナ不況」、「リモートワークの定着化」「ジェネレーションギャップの拡大」、「生産労働人口の減少」など人事にまつわる課題は山積しており、中小企業への影響度は大手企業と比較してもとりわけ大きいものとなるでしょう。大手企業の多くは潤沢な資金、強固なサプライチェーン、ブランドイメージ、優秀な人事管理部門、リテラシーの高い人財を抱えているため、上記のような社会問題下でも比較的上手く対応できます。中小企業の経営者にとってリモートワークへの切り替えやリモートワーク下での研修・管理、ジェネレーションギャップへの迅速な対応と制度改革、優秀な若者を引き付ける採用・選考施策などは非常に難しい課題です。
優秀な人事リーダーを登用し、抜本的な人事改革に踏み切ることがベストな策といえますがコストが大きい上に、彼らの力で組織全体を変えるのはなかなかハードルの高い作業であると言えます。それでは、一体何をすればよいのでしょうか。今回は特別に中小企業が着手すべき人事施策を一部紹介致します。
1つ目がリモートワーク・テレビ会議の実践です
オンライン上での会議は発言のタイミングや相手の表情の読み取りが難しく、コミュニケーションが取りづらいと言われています。確かに、対面のコミュニケーションと比較すると意思疎通の精度が落ちるため、悶々としてしまうかもしれません。しかし、リモートワークの導入は従業員のやる気・モチベーションの向上やオンラインでの営業活動の増進、機会損失の防止、地方に住む優秀な人財の活用など様々なメリットがあります。とりわけ、若い世代はリモート勤務・商談を好む傾向が強いため、早い段階で導入しておく必要があります。リモート勤務/テレワークに関しては小規模企業であっても十分実現可能であります。詳しくはこちらのコラムをご覧ください。
2つ目が1 on 1 の実施です
1 on 1 とは上司と部下の1対1の評価個人面談です。通常は半年に一回程度、目標管理(MBO)として活用される場であり、進捗に関して上司が「詰める」などネガティブなイメージを想起させるかもしれません。しかし、本来の目的は部下が成長するためにどのような助けが必要か、課題は何かなどをヒアリングし、能力を最大限に発揮できるようにすることです。近年は、スカウト会社・転職エージェントの横行により、従業員が職場でネガティブイメージを抱いてから退職を決断するスピードは非常に速いため、6か月に1度少し話を聞く程度ではあまり効果がありません。理想としては1か月もしくは2か月に1度、最低でも3か月に1度は1 on 1 の機会を設けましょう。成長/働きやすさ向上のための時間であると事前にしっかり伝え、議題に沿って1 on 1を実行することで単なる場当たり的な会議でなく、生産的な時間にすることができます。「そんな時間がとれない!」とお困りの企業経営者・人事担当者の方は、外部の業者に委託するのも一つの手です。弊社でも承っておりますので、ご興味のある方はこちらからお問い合わせください。
3つ目が業務分析の実践です
この業務分析は上記の2つに比べると圧倒的にハードルが上がりますが、人事機能の中で最も重要な活動となります。業務分析とは企業が効率的に作動するように、現状の業務のプロセスを見直すことを指します。例えば、あるポジションの業務はどのようなタスクをどのように扱っており、どのようなスキル・経験を要するのかなどを徹底的に調査します。この業務分析は、今後の採用活動において、誰を、どのような形態で、何人、いくらくらいの給与で雇い、どのように評価するかなど採用から退職までの全ての基盤となります。オファー給与額の設定やベースアップの基準なども全て、この業務分析プロセスがなければ適正な判断ができません。
今回のコラムでは、今後の社会問題や市場の変化に対応するために実践すべき人事施策三選をご紹介いたしました。人事施策とは、組織の特性や課題に応じて適宜打ち出すものです。自社の業務形態や従業員、市場での競争優位性や脅威、課題などをしっかりと分析した上で最適な人事施策、制度を模索していきましょう。
(D.S)