「だから辞める」バックオフィス・間接部門評価の落とし穴–イギリス流健康組織に向けた評価体制の作り方とは?– ~Voice!for HRM Vol.71~

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 バックオフィス とは直接的に顧客とのやり取りに関与せず、「間接的に」利益や顧客との関係性の向上に貢献する業務のことを指します。具体的には、経理部や人事・総務部、そして情報システムなど組織のコーポレート機能を支える部署を総称しています。企業内の位置づけとしては、Cost Center (業務にかかる費用が集計される部門)と区分され、Profit Center (コストだけでなく利益を生み出す部門)であるフロントオフィスと対照的に線引きがされているケースが多いのが現状です。

また、欧米圏でも会計部門やペイロール/勤怠部門の退職率は全産業で非常に高い水準となっています。その理由は、「有事の際にリストラになりやすい」「業務が単調」など多岐に渡っているものの、最も大きな要因として挙げられるのがその曖昧かつ不公平な評価・報酬制度です。

評価・報酬は英語では、「Performance Appraisal and Reward」と呼ばれ、エンゲイジメントの源として捉えられています。欧州の職業倫理の根本を支えるキリスト教文化では元来、「仕事」とは「罪を償う」行為であります。好奇心や才能そして使命感を直接仕事に活かすケースもありますが、多くの場合、やりたくない仕事を生活のために行うというのが大半でしょう。こういった組織におけるアンビバレンス (相反する状態)を上手く補正するために必要なものが「評価」「報酬」です。

Profit Centerであるフロント業務は直接的利益/収益を評価のベンチマークとし、達成度合いに応じてインセンティブとして報酬を与えることができます。フロントオフィスの場合、評価が「加点方式」のため「頑張れば報われる状態」を作りだすことができます。しかし、一方でバックオフィス業務は多くの場合、「減点方式」の評価制度が一般的であり、「ミスをしないことが当たり前」になっています。そのため評価をする側もされる側もいまいち基準がわからずに不公平性を感じることが多くなります。

また、組織内のバックオフィスの業務への認識も「居て当たり前」と錯覚してしまうため、「ハイパフォーマー」の流出に気づかず、退職後にその重要性を痛感するというケースも少なくありません。こういった状態に陥らないために、必要なことは

・ハイパフォーマンスの定義づけ (ある業務において何をもってハイパフォーマーか?)

・ハイパフォーマーの成果への適切な報酬付与

・ハイパフォーマーの定点観測と適切な対処

を徹底的に行うことです。評価・報酬の土台となるのは、何をもって高いパフォーマンスであるかの基準の明確化です。「労働」の本質を見極め、「労働者」を高いエンゲイジメント・生産性状態に導くためには、「これをやれば報われる」という基準を明白にしていなければなりません。そして、「加点方式」を採用し、組織・チームに貢献しているという実感をインセンティブ報酬 (かならずしも金銭的でなくてもよい)をもって示す必要があります。そして、常に人財ポートフォリオを見つめ、どのような従業員が辞める可能性が高いかの試算をパルスサーベイ等を用いて行うことも必要です。希少性の高いスキルを持った従業員の退職可能性が高い場合はその理由やサクセッションプランを立てなければなりません。

評価・報酬制度の一新は一朝一夕にはできません。まずは、貴社の制度が従業員にどのように認識されているかすなわち現状値を確認することが重要です。

(D.S