時間外のメール・電話対応は許容されるべきか?–リモートワーク下のワークライフバランス– ~Voice!for HRM Vol.62

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仕事とプライベートを切り分けることは、業務生産性の観点でも人道的にも重要であることは言うまでもありません。「週休1日制や終電帰宅が当たり前」など労働者の権利が皆無に等しかった20世紀とは異なり、仕事とプライベートをしっかり分けるというのが法律の観点でも企業倫理の観点でもグローバルスタンダードとなりました。

日本においても、過去の痛ましい事件を背景に政府主導の働き方改革が進んできました。近年は、社内での飲み会の強制参加といったいわゆる「体育会的風潮」も徐々に薄れ、働きやすい労働環境が整ってきました。しかし、ワークライフバランスや有給休暇の消化、”リモートワーク”の観点では多くの問題が山積みであると私は考えます。

私は、イギリスでコンサルタントとして欧州内5か国で様々な企業様とお仕事をする機会がありましたがAnnual Leave(有給休暇)を消化していない従業員を見たことがありません。福利厚生の一部で有給休暇を日給換算で組織に売却したり、買い増しを行うことはありますが、労働者としての当然の権利である有給休暇を放棄するといった事例はまずありえないでしょう。日本では有給休暇の繰り越しなどは日常茶飯事であり、「和を重んじる」という日本ならではの良き文化としてみなされるかもしれません。しかし、労働者が有給休暇を至極当たり前のように使い切るという文化を雇用者サイドが作っていかなければなりません。

また、近年では多くの企業がリモートワークを導入してきましたが、ここでも勤務時間外の会議参加や電話・e-mailの使用などワークライフバランスを妨げる要素が沢山露見してきました。フランスやドイツでは既に法整備が敷かれ、勤務外での電話やe-mailの使用が禁止されるようになりました。イギリスでもUnpaid labor (未払い賃金)問題が議論され、法整備が着々と進んでいます。従業員のRight to disconnect from work「仕事を遮断する権利」は近年ヨーロッパを中心にトレンドとなっており、LGBTQやウェルビーイング経営などと共に企業が注目すべきアジェンダの一つです。

従業員が勤務時間業務とプライベートをしっかりと線引きすることは、メンタルヘルスやエンゲイジメント、生産性の観点で不可欠です。エンゲイジメントサーベイや幸せ度調査、メンタルヘルスチェックを実施し、スコアを追跡することがトレンドと化してきましたが、企業が先ず着手すべきは業務時間内に仕事にフォーカスし、業務時間外にはしっかりと休める体制を構築することです。このメリハリがなければ、よほどの外的動機付け(超高額な給与など)がなければエンゲイジメントやモチベーションも上がるはずがなく、プレゼンティズム (仕事をしているが、パフォーマンスをあまり発揮していない状態)の恒常化につながります。組織の生産性を最大限に発揮するために、従業員がライフワークバランスを確保できているかを常に確認しましょう。

(D.S)