従業員サーベイ ・調査の落とし穴?–工数・費用が無駄になるES調査のやり方3選– ~Voice! for HRM Vol.75~

«
»

ES調査やモチベーション/エンゲイジメント調査を実施している企業は年々増え続け、労務行政研究所が大手企業を対象に行う「人事労務諸制度実施状況調査」によれば、2004年と比較して約2倍以上の企業が調査の実施を行っていることが分かりました。

この動向は、近年全産業において退職率が増加していることや、ウェルビーイング経営の重要性などが取り沙汰されていること、そしてサーベイを行うことそれ自体がトレンド化していることが背景として考えられます。

年に複数回サーベイを実施し、多額のコストや人員を投入している企業も少なくありません。確かにサーベイは、江戸時代に存在した「目安箱」のような機能を果たし、様々な意見を吸い上げるのに役立つこともあります。とりわけ匿名性を担保すれば、パワーバランスの偏った労使関係の中で、労働者が上層部に不満や希望を打ち明けられる重要な機会であるとも言えます。

しかし、実態として、多くの場合人事部の中でサーベイは「面倒なイベント事」と化し、目的が曖昧になっているケースが多々あります。

今回は、このようにサーベイが形骸化し、その目的と意義を失ってしまうパターン3選をご紹介いたします。

⓵: スコア/数値にやたらと振り回される

サーベイを実施している以上、従業員や部署/チーム間のスコアの違い、前回スコアとの比較を行うのはある種当然です。しかし、サーベイの質問の多くは、エンゲイジメントやモチベーションなど抽象的かつ影響変数が大きい要素を含んでいます。確かに様々な研究によってエンゲイジメントと生産性あるいは業績向上に強い相関性があることが指摘されてきましたが、仕事に対するやる気の源泉やそれらに対する影響は多岐に渡り、コントロールできない部分が沢山あります。例えば、「朝起きて、仕事へのやる気がみなぎっているか」といった項目は、体調やプライベートの状況によって日々大きく変化するものです。

そのため、むやみやたらにスコアの変遷に注目しすぎると、サーベイの目標がスコアの向上であるかのように錯覚してしまうことがあります。あくまでもサーベイとは、組織と従業員のコミュニケーション窓口であり、組織 (この文脈では人事・HR)の制度や施策がどう認識されているか、改善の余地はあるかなど具体的かつ生産的なものにすることを心掛けるべきです。

⓶: 目標がない/抽象的すぎる

⓵のスコアと似通っている部分もありますが、サーベイの目的がスコア/数値を追跡することになっている場合、その意義は完全に失われていると言っても過言ではありません。サーベイの実施は目的ではなく、あくまでも手段として捉えなければならないからです。サーベイの結果を戦略的に施策に落とし込むためには、逆算をして質問設計を行う必要があります。とりわけ、人事制度・施策面での課題可視化とその解決を行いたい場合は、従業員のライフサイクル (採用から退職までのプロセス)に則り、The Whole Story (組織で働くことの全容)を細かく検証するための質問でなければなりません。企業の大半が採用から退職に至るまでの制度があると思いますので、これらを細かく掘り下げた上で、どの箇所に課題があるかを探れば、施策立案までスムーズに行うことが可能になります。

⓷: 他社との数値比較に異常なまでのこだわりを持つ

とりわけ、サーベイを外注する際に多くの担当者が気にするポイントとして、

「他社との比較ができるか」があります。例えば、同じようなセクター/業界での(競合)企業がどのようなスコアに位置しているかは確かに気になります。しかし、全ての企業はそれぞれ独自のカラーや文化があり、バックグラウンドも異なれば、所属している従業員も十人十色です。このような中で同じ指標のスコアを追うことに意味はあるのでしょうか。「他人の目を気にする」というのは日本人のメンタリティとして一般に言えることだと思います。しかし、組織マネジメントという文脈においては、あくまでも自社の課題発掘と解決にこだわるべきです。目標を達成するためのKPI把握という観点で、オーダーメイドな設問設計を心掛けましょう。

(D.S)