昨今では、従来のメンバーシップ型雇用 (総合職型)から脱却し、欧米型のジョブ型雇用を導入することがトレンド化してきました。しかし、「メンバーシップ雇用」や「ジョブ型雇用」など単なるフレーズやトレンドに踊らされるのではなく、組織そして労働の本質を捉え、生産的かつ良質な働き方を支える人事システムの構築を行うことが必要です。
まず初めに、Job Description (以降JDとする)とは、「労働者が組織や部署、任されるポジションの中で求められる役割や責任、義務、振る舞い、行動範囲、成果、そしてそれに付随する報酬や条件などを明記した雇用主からのメッセージであり、今後の働き方の道筋を指し示すいわばコンパスのようなもの」です。企業と従業員 (あるいは求職者)が行うべき業務や期待される成果について心理的契約を交わすためにJD作成は必要不可欠なプロセスなのです。きちんとした心理的契約が取り交わさなければ、求めている人財の採用・選考やオンボーディング、人財開発や評価・報酬も行うことはできません。
人事課題として度々登場する「評価制度の不透明性」や「優秀な人財の流出」、「中間管理職の小粒化」の原因の多くは、JDの欠如に起因すると考えられます。例えば、評価を行う際に最も重要なのは「何を根拠に評価を行うか」です。任せる業務やその役割そして責任に関して労使間で真の合意が無ければ、上長やマネージャーが正確な評価を下すことも難しいでしょう。そして労働の基本はコミットメントとそれに対するリワード (報酬)です。頑張って業務に取り組んでいるのにそれに見合う評価や報酬が得られなければモチベーションが上がらず、転職に繋がってしまうのも納得です。マネージャーの役割も同様です。概して、マネージャーへの期待値は高く設定されていますが具体的な役割は厳密に定義されておらず、労使間での認識に相違が見られるケースが多いのが現実です。そのため、「うちの中間管理職は視座が低い」などと嘆く経営者が多いのです。
「暗黙の了解」や「阿吽の呼吸」が良しとされる日本社会では、求める役割や期待する成果についても比較的曖昧にとどめておくケースが多く、このため労使間でしっかりと合意形成がなされていないのが現状です。こういった曖昧なコミュニケーションに依存する文化を社会言語学の世界では、「ハイコンテクストカルチャー」と呼びます。言語化せずとも理解し合える間柄で仕事を行うことは一件効率が良いようでいて、実は生産性を低下させる大きな要因なのです。求められている役割や責任にズレがあるために、「視座が低い」などの事態で陥るのです。適切な人財をポジションにアサインし、明記された役割や責任、成果に基づいて評価を行い、リテンションのために適切なインセンティブを与えることは企業組織におけるHRの基本です。原理原則を全うするためにはやはり、JDは不可欠なのです。
JDの導入に懐疑的な人達の意見として度々出現するのが、
「全てのタスクを定義するのは不可能」
「JDで定義され得ない業務は誰がやるのか」
です。まずJDの作成に必要な前捌きが業務分析です。組織・部署にはどのような業務・タスクがあり、誰がどのように行っていて、誰に報告し、誰がチェックしているか、業務量は適切かといった業務のマクロ・ミクロの分析を行う必要があります。基本的に、ある業務について「誰がやっているかわからない」という状態は組織・チームとして機能不全を起こしていると言えます。多くのJD懐疑派が指摘する、「JDで定義されない業務」とは本来存在してはならない類の仕事なのです。現状の業務フローやボリュームを把握したうえで、任せる業務やタスク、役割を明確にすることが求められます。このプロセスを度外視して、採用を行うと「求めていた人と違う」「成長しない」「視座が低い」などの問題にぶつかります。
業務分析を行い、JDを作成し、JDの内容に基づいて、採用/選考・オンボーディング (定着支援)、スキル開発、評価、報酬、リテンション施策を打ち出すことが大切です。今後はグローバル競争の激化や多様性マネジメント、労働市場における少子高齢化・ジェネレーションギャップの拡大など働き方や雇用の在り方は大きく変貌することが予想されます。このような中で、従来の「暗黙の了解型」雇用は限界を迎え、各業務・ポジションの明確な定義化は必ず必要になります。
まずは、貴社の業務分析を行ってみませんか?弊社は、業務分析からJDの策定まで伴走致します。従業員の皆様に簡単な質問票を埋めて頂くだけで、JDの土台である業務分析を行うことができます。ジョブ型雇用の登竜門である業務分析について、ご興味のある方はこちらからお問い合わせ下さい。
(D.S)