「定義されない仕事は誰がやる?」–ジョブ型/職務限定型雇用の落とし穴– ~Voice! for HRM Vol.77~

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経団連が2021年1月に発表した「経営労働政策特別委員会報告」において、いわゆる「ジョブ型雇用」の必要性が提唱されたことを契機として、企業経営者や人事責任者の間で、職務 (ジョブ)を限定した働き方への関心度合いが急激に高まりました。

トヨタ自動車のトップを始め、日本企業の代表格が終身雇用に対して疑問を呈し始めたことや先進国の中で日本の生産性が著しく低下していることそしてグローバル市場の中で日本企業が競争優位を失い始めていることなどを背景に、「脱日本型雇用制度」「欧米の働き方への模倣」を目指す風潮が高まってきました。

ジョブ型雇用・職務限定型雇用とは、企業が雇用契約を行う際に、具体的な職務内容や職務責任、期待する成果や、コンピテンシー、勤務地や時間などを明確に定め、契約の範囲内で雇用を全うするという雇用方式のことを指します。こうした契約を交わした従業員を募り、企業内労働市場を形成します。そのため、雇用主(企業) による他部署への異動や職種転換、昇進などは原則としてありません。無論、新卒一括採用もありません。ポジションが空いたら、社内公募や推薦により応募を行い、一定のプロセスを経て、「契約のまき直し」を行うのがこのジョブ型雇用の特徴です。

この職務限定型雇用制度はアメリカやイギリスをはじめとした西洋諸国では一般的であり、世界的な雇用のスタンダードであると言えます。しかし、日本におけるジョブ型雇用制度の導入の有無に関しては、悲観的な見解を示す論者が多く散見され、中々定着しないのが現実です。いわゆる「ジョブ型雇用否定派」の意見として多く挙げられるのが

です。確かに、企業組織の中でマルチタスクな従業員は非常に重要であり、職務限定型雇用を導入すると、今までやっていたような働き方をしてくれないのではないかと懸念する方も多くいらっしゃるかと思います。シングルタスクしかやらない従業員が増えると、職務内容から漏れた業務を結局誰かが行わなければならず、かえって生産性が下がると考える方もいるかもしれません。

しかし、職務限定型雇用の中でベースとなる、Job Description (職務定義書)とは、従業員の仕事を一字一句書き記し、行動を限定しているわけではありません。当該ポジションの日常的に取り組むべき職務内容や期待される成果、組織・チームの中で、果たすべき役割や責任、レポート/コミュニケーションライン (報告・連絡系統)を明確にし、目的達成をより具体的なレベルに落とし込むために労働者が立ち返るべき「北極星」であり、雇用者からのメッセージなのです。

Job Description作成に際しては、経営層、人事部問、マネージャー陣総出で業務分析を行う必要があります。「誰が」「どんな仕事を」「どのように」「誰と」「どのくらい」行っているかを細かく可視化することから始まります。この業務分析を行うと、業務の特定人財群への一極集中化やマルチタスク具合、オペレーション上の機能不全、業務量の多寡が詳細に「見える化」します。そのため、多くの人が指摘する「漏れる仕事」を具体化し、業務に組み込むことができるのです。

確かに、企業組織や業務とは複雑かつ煩雑なものです。しかし、組織として、業務構造やフローを最大限単純化、可視化しておかなければ、適正な人財配置や採用、研修ニーズの把握、評価など人事面の施策・制度の構築はできません。

業務分析・ジョブディスクリプションの作り方に関してはこちらをご覧ください。

(D.S)