セブン&アイ・ホールディングスは、2023年9月1日付でそごう・西武を米投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループに売却しました。(日本経済新聞, 2023b)この売却をめぐり、そごう・西武の労働組合は、ストライキを実施。2023年8月31日には、西武池袋本店が全館休業。(日本経済新聞, 2023a)百貨店では60年ぶり(日本経済新聞, 2023c)のこのストライキは注目を集め、私もテレビやインターネットで多くのニュースを目にしました。
今回は、日本におけるストライキの法的背景と、従業員の声(Voice)について、書いてみようと思います。
【目次】
ストライキの法的背景
労働争議と労働組合のトレンド
労働争議と従業員の声(Voice)
ストライキの法的背景
日本国憲法第28条は、勤労者の「団結する権利(団結権)」「団体交渉をする権利(団体交渉権)」「団体行動をする権利(団体行動権)」を認めています。労働者は団結権に基づき、労働組合を結成することができます。労働組合は、賃金や労働時間・休日など、労働条件に関わる要求について、会社と交渉する権利を持ちます。これを団体交渉権と呼びます。団体交渉がうまくいかなかった場合には争議行為が行われ、これは団体行動権の行使と考えられます。
労働関係調整法は、争議行為を「労働関係の当事者が、その主張を貫徹することを目的として行う行為及びこれに対抗する行為であって、業務の正当な運営を阻害するもの」と定義しています。ストライキは「同盟罷業」と呼ばれ、争議行為の1つにあたります。
ストライキ(同盟罷業)は、直接投票により過半数の賛成を得た場合にのみ実施可能です。そごう・西武の場合は投票総数3833票のうち、賛成3600票(93.9%)でストライキを行う権利を確立しました。(会社四季報オンライン, 2023)
労働争議と労働組合のトレンド
日本では、労働争議の件数は、2003年以降、1000件未満を推移しています。また、半日以上のストライキ(同盟罷業)は2009年以降、50件未満を推移しています。(労働政策研究・研修機構, 2022)
世界に目を向けると、従業員がテクノロジーを利用して、従業員の声(Voice)を発信するケースもあります。例えば、2018年のGoogleの抗議活動では、従業員はソーシャルメディアを利用して、地理的に分散している他の従業員に連絡を取り、組織の方針に抗議するストライキを組織しました。ソーシャルメディアの使用により、集合的な意見を収集し、表現する機会が増加しました。(Khan et al, 2023)
ストライキは労働組合にのみ認められた権利です。日本の労働組合の推定組織率は2022年には16.5%となっており、過去最低を記録しました。(労働政策研究・研修機構, 2023b)働き方の多様化や労働組合への期待の低下により、労働組合への加入者数が減っています。(日本経済新聞, 2023d)
イギリスでは、従業員のうち、労働組合員である割合は2022年には22.3%に現象しました。これは、2017年以来の最低のレベルです。(Crown, 2023)イギリスにおける労働組合員の減少の背景には、ストライキ投票の厳格化など、法規制による労働組合の弱体化が考えられます。また、ギグエコノミーの台頭により個人事業主が増え、賃金交渉を個人で行う風潮が出てきたことも労働組合員減少の要因と考えられます。(Tinline, 2023)
また、アメリカでは2022年の労働組合組織率は10.1%で、データの比較可能な1983年以降で最低となりました。(日本貿易新興機構, 2023)諸外国においても、労働組合組織率は低下傾向にあるようです。(労働政策研究・研修機構, 2023a)
労働争議と従業員の声(Voice)
ストライキを含む労働争議は、従業員の声(Voice)を経営者に届ける手段の1つです。
CIPDは従業員の声を下記の2つに分類しています。
①組織と従業員との直接対話を伴う個人の声。個人が意見を述べ、提案することができる。
②労働組合とその代表者、およびスタッフフォーラムなどの非組合員の代表者を介した集合的な声。
(CIPD, 2023)
従業員の声には、主に2つの目的があります。1つは、全ての従業員が「良い仕事をする」という基本的な権利に取り組むこと。もう1つは多様な視点からの意見を聞くことで、組織の機能とパフォーマンスを向上させることです。(CIPD, 2023)
従業員の声に関するチャネルが効果的に機能すると、従業員は自分が大切にされている・信頼されている・影響力がある、と感じることができ、仕事の満足度とパフォーマンスも向上します。ラインマネージャー・人事担当者・リーダーには、従業員の声を積極的に引き出し、耳を傾け、それに応える責任があります。(CIPD, 2023)
労働組合との対話、1on1ミーティング、提案スキーム、タウンミーティング、従業員アンケート、チームミーティング、ソーシャルメディア等、様々なチャネルを活用することにより、従業員の声を引き出し、活用することをオススメいたします。
参考
CIPD (2023). Employee voice
https://www.cipd.org/en/views-and-insights/cipd-viewpoint/employee-voice/
2023/9/5 閲覧
Crown (2023). Trade Union Membership, UK 1995-2022: Statistical Bulletin
https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1158789/Trade_Union_Membership_UK_1995-2022_Statistical_Bulletin.pdf
2023/9/5 閲覧
Maria Khan et al,. (2023). Employee voice on social media – An affordance lens
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/ijmr.12326
2023/9/5 閲覧
Phil Tinline (2023). Can UK trade unions recover their post-war power?
https://www.economicsobservatory.com/can-uk-trade-unions-recover-their-post-war-power#:~:text=In%20manufacturing%20and%20retail%2C%20union,not%20striking%2C%20but%20changing%20job.
2023/9/5 閲覧
会社四季報ONLINE(2023)そごう・西武労組、賛成率93.9%でストライキ権を確立
https://shikiho.toyokeizai.net/news/0/689584
2023/9/4 閲覧
日本経済新聞(2023a)そごう・西武、西武池袋本店を通常営業 米ファンド傘下https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC011KE0R00C23A9000000/
2023/9/1 閲覧
日本経済新聞(2023b)セブン&アイ、そごう・西武売却 実質譲渡額は8500万円
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC016I90R00C23A9000000/
2023/9/1 閲覧
日本経済新聞(2023c)百貨店、スト実施なら60年ぶり
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO73927550W3A820C2EA5000/
2023/9/1 閲覧
日本経済新聞(2023d)労働組合への加入率 22年は16.5%で過去最低
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA283GB0Y2A221C2000000/
2023/9/5 閲覧
日本貿易振興機構(2023)米国、労働組合組織率10.1%で過去最低、組合員数は増加
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/01/e75636b0a7c6267f.html
2023/9/5 閲覧
日本労働組合総連合会(2023)働く人の権利とは?
https://www.jtuc-rengo.or.jp/about_rengo/toall/right.html
2023/9/1 閲覧
労働政策研究・研修機構(2022)図2-1 労働争議https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0702_01.html
2023/9/1 閲覧
労働政策研究・研修機構(2023a)諸外国の労働組合組織率の動向
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/shuyo/0702.html
2023/9/5 閲覧
労働政策研究・研修機構(2023b)1-1 労働組合組織率、組合員数https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0701_01.html
2023/9/1 閲覧