パナソニック社が2022年1月13日に希望する社員に対して週休3日制度を選べる方針を明らかにし、一躍話題となりました。この制度に伴う給与規定や労働時間の改定については未定であり、今後協議していくということです。
この週休3日制に関しては、パナソニック社以前より、みずほフィナンシャルグループ社やマイクロソフト社なども発表しており、労働市場全体である種のトレンドと化してきました。
また、この問題については政府内でも積極的に議論されており、昨年6月に発表された「骨太方針」の中でもその導入の重要性が説かれており、生産性やイノベーションの観点で他の先進国に後れを取る日本経済のブーストを行う狙いがあります。
この週休3日制度に対する各企業のアプローチは多種多様であり、例えば、みずほフィナンシャルグループ社は労働時間を短縮し、給与をカットする一方で、マイクロソフト社は労働時間を短縮しつつも本制度導入後も同様の給与水準を担保することが明らかとなっています。
いずれにせよ、大手企業が軒並み「働き方の自由」を提供し始め、「職場の魅力度向上」や「生産性アップ」を試みていることがわかります。こうした各企業の取り組みやトレンドは日本経済を支える中堅・中小企業にどのような影響を与えるのでしょうか。
中堅・中小企業の給与水準やフリンジベネフィット(付加給与)のバリエーションに関していえば、大手企業と比較すると労働者の目線での「働く魅力度」としては一般的に見劣りする傾向があります。これまでは、大手企業にないフレキシブルさや働きやすさで中堅・中小企業は差別化を図り、優秀人財を確保してきました。
しかし、週休3日制度を皮切りに、大手企業の多くが給与や安定、福利厚生の充実さだけでなくフレキシブルさや働き方の選択肢を提供するようになりました。このような状況を踏まえ、中堅・中小企業は今後どのようなベネフィットを提示し、優秀な人財を魅了していけばよいのでしょうか。
様々なHRMの研究結果から、「職場の魅力度」を向上させる施策いわゆる「ベストプラクティス」が報告されてきました。
例えば、DAO(分散型自立組織)を構築し、従業員に多くの権限を付与するエンパワーメントやストックオプション制度、副業の認可、リモートワークなど職場の魅力度向上に効果があるとされるベストプラクティスは世界中で多く報告されてきました。
しかし、企業とは様々な個人が集合した複雑な「社会」であります。また、各企業はそれぞれ独自の社史や文化、ビジョンを有しており、いわゆるOne-size-fits-all (どこでも通用する)な施策というのはほとんど存在しないのが現実です。
過去にToyotaで成功した人事戦略がFordで全く機能しなかった事例は非常に有名ですが、これは国内の企業でも当てはまります。大手企業が実践し、上手くいった事例を中堅・中小企業が模倣しても機能するとは限らず、逆もしかりであると言えます。
多くの企業で上手く機能した「ベストプラクティス集」を施策の選択肢として有しながらも、自社にとって最も費用対効果が良い施策を考える必要があります。大手企業は、ベストプラクティスを沢山試すだけの財政的・工数的余力を有しているケースが多い一方で、とりわけ中小・零細企業では、「良いものを沢山試す」というのが難しいのではないでしょうか。
なるべく課題解決に直結する様な施策をピンポイントで打ち出すことができれば、無駄なコストや人件費をかけず、最大限の効果を享受することができます。そのために必ず行うべきこととしては、現状の制度・施策の効果測定です。
経営者や人事担当者がいくら良いと思っていても、従業員が施策や制度に対して魅力を感じていなければ意味がありません。無論、全従業員の要望に沿った施策の実行は不可能であるため、企業のできる範囲以内で最大公約数的施策を見出すことが人事担当者の腕の見せ所となります。
(D.S)