近年、ジョブ型雇用の概念が日本の労働市場にも浸透し始め、これに伴い専門性やスキルベースの採用そして人事制度整備の必要性が叫ばれてきた。ジョブ型雇用では限定的な雇用契約を行うため、メンバーシップ型(総合職型)雇用を長らく行ってきた日本企業にとっては法的な観点そして実務的な観点でクリアすべき課題が山積みである。ジョブディスクリプションはジョブ型雇用における入り口である。ジョブ型雇用を検討する企業はジョブディスクリプションの概要を抑えておく必要がある。ジョブディスクリプションとは、あるポジションに伴うタスクや義務、機能そして責任を記述・定義するわかりやすいツールである。特定の仕事を誰が行い、またどのように遂行され、その仕事の頻度そして、仕事の目的に関する詳細を記述する。仕事とは組織のミッションやゴールの達成に直接的に影響するため、こういった記述そして定義は必須である。ジョブディスクリプションは給与レベルの決定や定期的なパフォーマンスレビュー実施、ミッションの明白化、またタイトルや給与等級の設計、特別な配慮のコントロールまた採用のためのツールとして用いられる。
ジョブディスクリプションはパフォーマンスのための指針として用いられ、わかりやすく正確な情報源として活用される。同様に上司も部下が業務の期待値を満たしているかを確かめるための測定ツールとしても用いることができる。またジョブディスクリプションは、キャリア設計や研修、コンプライアンスの観点での法的要件設計を行う際にも活用できる。
アメリカのHR団体SHRMによるジョブディスクリプションの作り方を2回に分けてご紹介いたします。(前編)
作成手順
Step1:業務分析を行う
Step2:必須機能の構築
Step3:データを正確に整理する
Step4:免責事項の追加
Step5:署名欄の追加
Step6:完結
Step1:業務分析を行う
業務タスクに関するデータの収集や調査、解釈のプロセスにより正確な業務情報がわかり、企業が効率的に作動するようになる。業務分析とは以下である。
- どのようなタスクが行われているか実際に従業員にインタビューを行う
- どのようにタスクが行われているかObservation (観察)する
- アンケートやワークシートを記入してもらう
- 給与サーベイやOccupational Outlook Handbook (職業展望ハンドブック)などの情報源から業務に関するデータを収集する
この結果を文書化し、当該ポジションにいる従業員にチェックしてもらう。またその上司に知識やスキル、能力、身体的な性質、環境要因そしてポジションに関する資格情報/経験の変化についてレビューをしてもらう。
- Knowledge(知識): 経験や学習によって習得された情報体系への理解
- Skill (スキル): 学習した活動を実行するための現在進行形で観察可能なコンピテンシー
- Ability (能力): 観察可能な振る舞いを行うためのコンピテンシーあるいは観察可能な成果に結びつく振る舞い
- Physical characteristics(身体的な性質): 職務を遂行するために必要な身体的属性 (特別な配慮が必要か否か)
- Environmental factors (環境要因): オフィス内外での労働条件
- Credentials/ Experience(資格/経験): ポジションに必要な最低限の教育、経験そして資格
Step2:必須機能の構築
上記のように特定の業務に対するパフォーマンス規定を作成した後は、当該ポジションの必須機能について定義しなければならない。これによって障がいを持つアメリカ人法(ADA)要請を評価できるようになる。以下が必須機能へのステップである。
- 業務機能の一部としてのタスクが職務遂行に本当に必要であるあるいは要件であることを確証する
- タスクが行われる頻度やタスク遂行にかかる時間を決める
- その機能を実行できないことからくる結果そしてその結果が企業のオペレーションに支障をきたすもしくは重大な結果につながるかどうかを見極める
- タスクの再設計もしくは別のやり方で遂行できるか検討する
- タスクを別の従業員に振り分けできるか否かを決定する
この作業が終わると雇用者はこの機能が必須であるかそうでないかの判断ができるようになる。「必須機能」という言葉の使用はジョブディスクリプションの一部であり、どのように個々人が職務を遂行するべきかを明白に記述する。これにより、職務が特別な配慮をもってあるいは配慮無く遂行されうるかに関する判断ができるようになる。
(D.S)