近年、急速なグローバル化と共に Diversity ( ダイバーシティ )という言葉が一種の流行と化し、多くの企業や機関がその取り組みを重要な活動として掲げるまでとなった。米国や欧州といった多人種・民族国家においては、多種多様な人々・コミュニティー・社会が平和的に共存していく為に、お互いを尊重し合い、許容していく必要性の中に生まれた言葉であり、概念である。我が国日本は鎖国国家の歴史を背景にhomogenous (均質的)な国として、長らく烙印を押され続けてきたが、現在日本は毎年約50万人の移民の受け入れを行うイギリスに次ぐ、OECD加盟国中第4位の移民大国である。
少子高齢化、急激な人口減少の中でGDP3位の経済大国を駆動している現状を鑑みれば、国外に働き手を求める動きは至極当然である。しかしながら、総務省が公表しているデータによれば平成22-29年にかけ、外国人技能実習生の実に174人が自殺や実習中事故といった悲惨な死を遂げており、外国人労働者の労働状況は悲惨を極める。こういった状況は雇用者の脆弱な管理体制と多様性への理解の欠如に起因するのではないだろうか。そこで今回は、企業の中でいかに特定の人種、民族、嗜好を持った人々が直接的にまたは間接的な差別を受けているかを解説し、我が国における移民の重要性を認識しながら読んでほしい。今回はダイバーシティ中でも、採用・選考にフォーカスをする。
採用と選考とは人財を職業上のタスクや機能に配置するプロセス(Jewson and Mason 1986 p. 44)の事であり、雇用、プロモーション、評価、解雇を含む。採用とは外的に労働市場でまたは内的には組織内 (企業内労働市場)において行われ、母集団の特定とターゲットを行い、そこからある職に対する候補者を選択する (eg. どのように仕事が宣伝・掲載されるか)。選考とはプロセスと基準であり、それによって母集団の中の個々人が職へと割り当てられる (インタビュー、アセスメントセンター)。
例えば、EU内では雇用者が採用・選考のどのプロセスでも年齢、障害、人種、信条、性的嗜好、ジェンダーといった候補者の特性に対してあまり好ましくないような形で扱うこと、差別を行うことは法律違反となる。ジョブディスクリプションや候補者の特定、応募書、またはインタビュー、テスト、候補者分けリストの段階でも同様である。応募書やインタビューでは出生地など必要な個人情報や直接的に職とは関係のない事柄を聞いてはならない。こういった質問はアセスメントを行う前に応募申請書とは切り離された形でモニタリング書の中で管理される。しかし、候補者が仕事に応募できるようにあるいは面接に参加できるように障害の有無に関しては聞いてもよいことになっている。
差別の中でも直接的な差別そして間接的な差別が存在する。直接的な差別とは「ジェンダーや年齢、障害や人種など保護されるべき個人の特性に関してAさんがBさんを差別する」といったことに言及する。これに対し、間接的な差別「Bさんの保護されるべき個人の性質に関連した規定、基準そして慣習をAさんが適用させる。」のような状況を指す。EUの平等法 2010 (Equity Act 2010)によれば特定の職種によっては性別・人種・性的嗜好・障害等の要件を付与することができるという。例外はあるものの、業務を定義するうえで必要不可欠なものに限定される。さらには、採用の初期の段階で特定されていなければならない。雇用者は法によって過去に起こった差別や不利益の結果として職場で発生する可能性のある不均衡を是正するためにポジティブアクションを行うことが許されている。ポジティブアクションの狙いとしては過去に阻害された人たちが他の候補者と平等で競争できる機会を得られるようにすることである。ポジティブアクションは過小評価グループ (多人種等)に直接的に向けた宣伝や募集そしてトレーニングを含む。
また、選考にあたって用いられる選考基準について説明をする。選考基準とはある特定の募集に適切であると判断する際に用いる属性である。この属性はexplicit (明白かつ正式な)基準とimplicit (暗黙の)に分類される。前者は資格や知識、スキルなど個人のスペックを含み、後者は「魅力的である、社交的な人間性、直観」などなど非公式なものを含む。これは技術的能力やスキルそして知識などsuitability (適性) と人物が組織にフィットするか、また管理しやすいか等のacceptability (受容性)に関連する。 (Jenkins 1986)。適性 ではなく「フィットする能力」や「顧客または他の従業員」といった受容性 に基づいた基準が適応すればするほど直接的な差別は起こりやすくなる。また、直観や社交性といった暗黙の基準が適応される場合も同様である。職に社会性や性格が機能的な要件として求められるのであれば明白な基準として含まれるべきである eg. 明るい性格、飲み会が好きなど(Jenkins, 1986, Jewson and Mason, 1986)。数十年にもわたる研究の結果、受容性を基準とした採用・選考を行う企業は実際には組織にフィットする候補者を上手くアポイントできないということがわかった。つまり、組織にフィットする候補者をアポイントするために差別を行いながらも、実際には相性の良い候補者を採用できていないということである。
長年日本の労働市場を支えてきた年功序列型、終身雇用モデルからジョブ型志向の労働市場への転換期を迎え、「社交的」「酒の場が好き」「盛り上げ上手」といった業務に不必要な個々人の性格や面接官のgut feeling (直観)に左右される企業が悪化の一途を辿ることは火を見るよりも明らかである。各企業の業務内容・ジョブディスクリプション・業務設計・組織・風土を明確に定義し、最善かつ最適なHRMプラクティスを導入していくことが適正な人材の確保とリテンションひいては組織の存続にとって不可欠である。
後編では実際に採用・選考・アセスメントのプロセスでどのように差別が起きているのかそしてそれに対する打開策を紹介する。