こんにちは。
少し前にネットニュースを見ていた時、中国で最もお金持ちと言われた華西村が8兆円の負債をかかえてしまった、という報道を目にしました。気になったのはそのニュースについていたコメントの一つ。
「8兆円の負債があるなら、貸借対照表がバランスしている以上、どこかに8兆円の資産があるはず」
というものです。
なるほどなるほど。
ちょうど貸借対照表関連の話をしようと思っていたところなので、今回は債務超過について考えていきたいと思います。
まず前提として、貸方側に負債が8兆円あるからといって、借方側の資産に8兆円分計上されているとは限りません。
華西村の財務諸表を見たわけではないので断言はできませんが、ニュースになっている以上8兆円の資産はないでしょう。
なぜかというと単純な話、貸借対照表に計上される項目は負債だけではないからです。
貸借対照表の一般的な見た目は「【財務会計】貸借対照表」の記事でも書きました。
貸方、つまり右側には負債の他に純資産という項目があります。
「なら負債+純資産で資産は8兆円よりも多くなるはず」と思った方は数学史における歴史的な発明を失念しているようです。
そう、マイナスですね。
8兆円負債があっても純資産がマイナス7兆円ならば資産は1兆円しかないことになります。
さすが中国、単位が大きすぎて「1兆円しか」という言葉に疑問を覚えるところですがともかく。1兆円の資産で8兆円の負債を返済しきれるはずもないことはお分かりいただけると思います。
この、純資産がマイナスになってしまっていることにより負債額が資産額を超過してしまっている状況。これを債務超過と言います。
ここからは仕組みの話です。
純資産がマイナスになる原因の一つとしては、赤字が続いたことです。
赤字、つまり損益計算書上で表現される最終利益がマイナスになると、純資産額は目減りしていき最終的にはマイナスに至ります。
これがなぜかというのは利益の計算式2つを見てもらったほうがわかりやすいかもしれません。
【利益の計算式】
①収益 - 費用 = 利益
②期末純資産 - 期首純資産 = 利益
なぜ計算式が二つあるのか気になる方は過去の記事をどうぞ。
→会計基準の話【会計基準と会計観】
どんな会計基準を採用したとしても財務諸表上、①と②の式の計算結果は一致するように作られています。
①の金額は損益計算書を、②の金額は前期の貸借対照表と今期の貸借対照表を見ればわかります。
赤字で①がマイナスになったならば、②も当然マイナス。つまり期末の純資産は期首の純資産より少なくなっているわけです。
簿記の知識があればこの辺は「資本振替の結果です」と言えば説明するまでもないでしょう。
このように、赤字が続けばその蓄積分は資本金を食い破り、マイナスに突入していき、債務超過となるのです。
世間一般的に赤字は悪いことのように思われがちですが、必ずしもそうとは限りません。
勿論いいことでもないので認識を改める必要はないですが、創業当初など、しばらくは赤字前提で事業活動するケースもあります。
そういった場合、債務超過に陥ることもあり得るでしょう。
問題なのは、赤字が常態化することです。
好転する見込みがなければ債務超過から持ち直すことはできません。逆に言えば投資した設備等が順調に収益を生むようになれば自然と債務超過は解消されていきます。
もしそうならなかったら、状況はどんどん悪化していきます。
借金の返済が不安視される状態ですので、当座の資金をどこかから調達したいと考えるでしょう。ただし金融機関も慈善事業ではないので、融資が受けられなくなる可能性が高いです。
そうなればどこかで資金繰りが行き詰ります。ここまで行って倒産、ということにです。
債務超過にいいことがないのは言葉のイメージ通りです。倒産とイコールで結ばれるわけではないですが、経営破綻へのステップの一つであることに違いはありません。
私が会計を勉強し始めたころ、先生から破産した企業の社長が会見で「うちの会社の金庫には資本金1億円が手を付けずに残っているので大丈夫です」と発言した例があると聞いたことを覚えています。
これは笑い話として、です。この発言がどれだけ頓珍漢なことを言っているのか、会計知識がある方には明白でしょう。
会計知識を前提に日々流れるニュースをみていると、また味わいが変わってくるかもしれませんね。