この質問は一見単純ですが、 会計基準 の前に会計観の話から始めなければいけない根源的な質問です。
大まかに言って、この質問への答えが2パターン存在するからです。
歴史的に、会計の目的は大きく変わってきました。
資本(投資者)と経営が分離していなかった時代は企業の情報を求める関係者は債権者がほとんどで、企業の債務弁済能力が重視されていました。企業がいつ解散するかわからない中で、解散するときに貸していたお金が返ってくるかどうか気になりますよね。
そこから経済成長の著しい時代に入り、投資者の増加に より企業の収益力の把握が重視されていきます。
成長を続ける企業はこれからも継続して事業を続けていくことが前提となり、投資者たちの関心は企業を継続して事業を行えるだけの資金があるかではなく、どれだけ儲けられたのかに移っていったんですね。
ところが最近になって、かつての考え方に回帰していると言われています。
企業がいつか倒産するかもしれないというリスクを抱える中、過去の利益情報だけではその企業の将来性を判断できないということみたいです。
具体的な内容を見ていきましょう。
会計の目的を債権者保護の観点からの財産計算に求める思考を静態論といいます。
企業の債務弁済能力を表示する、というのはこのことですね。この考え方によれば重視されるのは『損益計算書』ではなく『貸借対照表』となり、財産計算の結果、副次的に利益が計算されます。
静態論に紐づく利益の考え方を『資産負債アプローチ』または『資産負債中心観』と呼び、利益は企業の正味資源(純資産)の増加分として計算されます。
計算式としては 期末純資産 - 期首純資産 = 利益 となり、要するに期首から期末までの間にどれだけ純資産が増加したかに着目しています。
この結果、収益は資産の増加、または負債の減少により把握され、費用は資産の減少または負債の増加により測定されます。
損益計算書を作成するために収益や費用という言い方をしているだけで、資産負債アプローチでは利益計算に収益や費用という概念を必要としていません。便宜上純資産が増えた原因が収益、減った原因を費用と呼んでいるんですね。
こうして資産負債アプローチにより計算された正味資源は、企業が将来生み出すキャッシュの現在価値、つまり現時点でこの企業はいくらになるのかを示しています。
資産負債アプローチとは打って変わって、会計の目的を投資者保護の観点からの損益計算に求める思考を動態論といいます。
この考え方によれば、重視されるのは『損益計算書』となり、『貸借対照表』はいわば損益計算書を正確に作成するための
補助資料といえます。
動態論と紐づく利益の考え方が『収益費用アプローチ』または『収益費用中心観』です。
収益費用中心観では利益を 収益 - 費用 = 利益 と計算します。ここでいう収益は一定期間における企業の成果であり、費用はそれを獲得するために費やした努力を指しています。収益費用アプローチでは成果と努力を対応させることが重要で、その結果として利益が計算されるんですね。
収益費用アプローチでは一定期間の成果と努力を損益計算書に記載する都合上、現金収支と損益計算にずれが生じることがあります。例えば売掛金です。売掛金は収益となったものの、まだ回収していない債権を表しますよね。
こうした損益計算と収支計算のズレは貸借対照表に記載され、翌期の損益計算には含まれないことを示しています。その前提には企業がこれからも継続して事業を行っていくことが含まれています。今期と来期とそのまた来期があるので、今期はいくら、来期はいくら、といった区別が必要になってくるんです。
収益費用アプローチで計算された利益は企業活動の効率性の測定値である、と言われています。その企業が持続的にどれくらいのキャッシュを獲得できるかを示しているのです。
会計観による利益の捉え方の違いをお話してきましたが、もちろん利益だけでなく貸借対照表項目の考え方もどちらを採用するかで異なってきます。
資産負債アプローチでは公正価値という考え方で資産を評価します。
ところが公正価値の求め方、といいますか、定義は実ははっきりしていないんですね。多くの場合は時価とされますが、時価だけを指しているわけではありません。将来生み出すキャッシュフローの現在価値という概念に照らすと、割引現在価値を評価額とする考えが一番自然かもしれません。
いずれにしても、資産負債アプローチでは「今いくらの価値があるのか?」という情報を提供するための評価方法が採用されます。
他方、収益費用アプローチではどうでしょうか。
収益費用アプローチで重視するのは収益と費用の対応関係であり、企業活動の効率性です。この考え方のもとでは固定資産などを直接売却することによりキャッシュを獲得することは想定されていないので、その使用により得られた収益と得るために犠牲にした投資額を対応させることを考えます。
これにより、いくら投資していくら儲けたのかを知ることができるんですね。
結果として、収益費用アプローチでは資産を取得した時の金額で評価します。これは今いくらか、や将来いくらになるかではなく、過去いくらだったかに着目しているといえます。
なんとなく、二つの考え方があることはわかっていただけたでしょうか。
現在日本の 会計基準 は収益費用アプローチから、国際会計基準の採用する資産負債アプローチを織り交ぜた形へと変化しています。
とはいえまだ収益費用アプローチの影響が強く、部分的に資産負債アプローチが採用されている印象ですね。
さて、次回はいよいよ会計基準のお話をしていこうと思います。