今回は労働に関する規則の内、法令(労働基準法等)、労働協約、就業規則、労働契約、労使協定の5種類について説明を行います。
まず初めに、それぞれの効力の強さにより優先順位をつけると、以下のようになります。
法令 > 労働協約 > 就業規則 > 労働契約
※労使協定については後述
例えば、就業規則の内、法令で定める基準に達しない労働条件があった場合、その部分については無効になります。法令で定められている最低賃金が1,000円である場合、就業規則で最低賃金を900円と取り決めたとしても、就業規則で定めた900円は無効となり、法令で定められた最低賃金が優先される、といった形です。
(労働基準法第1条,第92条、労働契約法第12条)
つまり、原則として法令(労働基準法)よりも労働条件が不利になることはない、ということになります。
“この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。”
(出典 労働基準法第1条)
しかし、組織によっては労働基準法で定められた基準では業務に支障が出る、という場合もあります。このような場合に一定の範囲で例外を認めた規則が「労使協定」になります。
使用者は、
“・当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、
・労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、
届け出た場合においては、労働時間又は休日に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。(一部省略)”
(労働基準法第36条)
労働基準法上、労使協定という言葉が定義されているわけではなく、「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定」が一般的に労使協定とされています。
普段会社から給料を貰っている方は、給与明細を見た際に「健康保険料」という名前で給料から金額が引かれているかと思います。これを払っていることで、医療保険に加入していることになります。
また家族が健康保険に入っており、その扶養に入っている場合(専業主婦・主夫や子ども)は、保険料を負担することなく、医療保険に加入することになります。
そこで、会社を退職した場合、どのように医療保険に加入することになるでしょうか。
それでは、各 労働規則 の概要、どのようなことをそれぞれ定めているのかを見ていきます。
・労働法
先ほどの例では労働基準法をあげましたが、法令の内、使用者(雇う側)と労働者(雇われる側)の関係性を規律する法令の総称を一般的に「労働法」と言います。
労働法には他にも、労働者の安全のための法律、年金や保険に関する法律、雇用の平等や安定に関する法律、労働者の交渉や争議の調整のための法律まで多岐にわたり、この多くは労働者の権利を守る法律となっています。
これは、使用者と労働者が対等な立場であるべきという考えのもと、労働者を法律で守ることによって、使用者側の立場が強くなるのを防いでいるのです。
それぞれの法令についての説明は、今後の記事で触れていきたいと思います。
・労働協約
労働協約とは、労働組合法の中で定められた、労働組合と使用者またはその団体と結ばれた労働条件に関する取り決めのことです。
内容についての制限は特に無く、労働者の待遇についての基準を定めた「規範的部分」と、労働組合と使用者の関係を定めた「債務的部分」に分けられます。また、労働協約の有効期限の上限は3年です。
※労働組合とは
憲法28条では、労働者が団体を結成し、団体交渉、団体行動するという、労働三権と言われる権利が保障されています。
そして、賃金や労働時間などの労働条件の改善を図るために労働者がつくる団体が「労働組合」として労働組合法で結成の権利が与えられています。
日本において労働組合の人数は減少傾向にあり、推定組織率(雇用者数に占める労働組合員数の割合)は1948年の55.8%のピークから減少を続け、2022年時点で16.5%となっています。
(厚生労働省「労働組合基礎調査」(令和4年))
・就業規則
就業規則は、従業員を10人以上雇っている事業所で必ず作成される、労働条件等に関する具体的な規則集です。
就業規則に必ず記載しなければならない事項は絶対的必要記載事項と言われ、以下の3つがあります。(一部省略)
・就業時間、休憩時間、休日、休暇等に関する事項
・賃金の決定、計算及び支払の方法
・退職に関する事項(解雇事由を含む)
他にも、退職手当、ボーナス、職業訓練等、その制度を置く場合には就業規則に記載しなければならない事項として相対的必要事項があり、その他記載された事項は任意記載事項と言います。
労働協約の適用範囲は使用者と労働組合員(原則)のみだったのに対して、就業規則の適用範囲は、雇用される全ての従業員が対象となります。
また、就業規則は各作業所の見やすい場所への掲示、備え付け、書面の交付などによって労働者に周知しなければなりません。(労働基準法第106条)
・労働契約
労働契約とは、労働者ひとりひとりが会社に入る時に使用者と取り交わす契約のことです。労働者が労働に従事して使用者が賃金を払うという契約に対して、双方が合意することによって成立します。
労働契約法により、5つの原則が掲げられており、労働契約における締結や変更は、この原則に基づいておこなう必要があります。
労働契約期間の定めの有無によって、正規雇用と非正規雇用とに区別されますが、労働契約法は労働契約の最長期間や正社員への登用、更新についても定めています。